易占がベースとしているのは『易経(えききょう)』という書物です。はるか昔、中国で成立した四書五経(ししょごきょう)と呼ばれる経典の筆頭に置かれるたいへん由緒正しいものなのです。
その易経は、宇宙や人生の森羅万象(しんらばんしょう)を予言する占いの書として、発祥したため内容はとても神秘的ですが、哲学・倫理を説く書としても後世へ読み継がれています。
古くは中国の偉人・孔子(こうし)も易経を何度も何度も読んだため、本の綴じ紐が三度も切れたなどと伝えられているそうです。さらに現代の日本でも易経を読む会や易経をベースとした経営セミナーが盛んなのです。ご存知でしたか?時代を超えていつまでも色あせない崇高な魅力を感じさせてくれるのが易占・易経です。
それでは、易占・易経がどの様な占い方法なのか解説をしていきます。
易占とは?
易経の本文は、横棒を6本連ねた奇妙な記号と、それに添えられた謎めいた言葉がメインです。記号も言葉もあまりに難解なため、多くの人々の知的好奇心を刺激してきました。歴代の学者が解釈や意味を研究し、注釈を書き継ぎ書き継ぎして、現代のような解釈が生まれました。
そうした中で成立したのが「易学(えきがく)」です。長い歴史を経ても、いまでも解釈が定まっていない文章も少なくありません。正解は誰にもわからない、答えがなかなか出ない神秘性から、易経・易学はいつの時代も深遠な学問として尊ばれています。
易占いのやり方
占いのやり方としては、数種類のやり方があります。ここでは、いくつかの易占いのやり方をご紹介します。
筮竹(ぜいちく)とは、易占において使われる50本の竹ひごのようなものです。
長さは35cmから55cm程度のものが多く、両手で天策と地策に分けるときに扇形に開きやすいよう、手元に当たる部分をやや細く削ったものもあります。
算木とともに、易者のシンボルとして知られています。
竹でないものもすべて含めて筮(めどき)と呼びます。
易占タロットカード
易占タロットカードとは、中国古来の易経の思想と、西洋のタロットカードの要素を融合させた占いの道具です。
伝統的なタロットカードが78枚のカードを使うのに対して、易占タロットは易経の64卦をベースにしたカード構成となっていることが特徴です。
易経は紀元前から伝わる中国の古典であり、陰陽思想と六十四卦によって世界の森羅万象を読み解く体系として広く知られています。
現代では、易占タロットカードは通常のタロットカードと同様に、人生の指針や迷いの解決のために使用されます。
ただし、易経特有の哲理と象徴性を含むため、単なるカード占いというよりも深い思索を促す道具として重視されます。
易占タロットの歴史
易占タロットカードの誕生は、20世紀以降、特に東洋思想や神秘学が欧米で注目を集めた時期にさかのぼります。
従来のタロットリーディングに物足りなさを感じた一部の占術家たちが、より包括的で哲学的な体系を求めた結果、易経を取り入れる形で生まれました。
特に1960年代から70年代にかけてのニューエイジ運動では、易経、禅、仏教、ヨガといった東洋思想が西洋文化に取り込まれ、多くの占い師や研究家によって易とタロットの融合が試みられました。
この流れの中で、64枚の卦を直接カード化したり、78枚のタロットに64卦の象意を割り当てるなど、さまざまな派生形が誕生しました。
易占タロットの構造と特徴
易占タロットカードは基本的に、易経の64卦がそれぞれのカードに対応しています。
卦とは、3本の陽爻(―)または陰爻(--)を上下2段に重ねることで構成されるシンボルです。
それぞれの卦は天・地・火・水・山・雷・風・沢などの自然現象を象徴し、組み合わせによって人間のあらゆる状況や変化を示します。
易占タロットカードの特徴としては、カードを引いた結果だけでなく、変爻(卦の線が変わること)を意識しながら占う点にあります。
一般的なタロットではカードの正位置・逆位置が重要ですが、易占タロットでは、卦の変化や移り変わりを含めて読み解くため、よりダイナミックで時間軸のある解釈が可能です。
また、カードには卦の名称、構成する爻、象意(象徴する意味)、解説文が記載されていることが多く、初心者でも比較的扱いやすい設計になっています。
一方で、深く学びたい人にとっては、易経そのものの学習が不可欠であり、そこに奥深さが存在します。
占いの方法
易占タロットカードの使い方は、基本的には通常のタロットカードと同様です。
悩みや相談ごとを心に思い浮かべてシャッフルし、一枚または複数枚のカードを引きます。
その際、質問内容に応じてスプレッド(並べ方)を変えることができます。
たとえば、シンプルな一枚引きでは現在の状況を示し、三枚引きでは「過去・現在・未来」や「問題・原因・解決策」といった時間軸での読み解きが可能です。
ケルト十字スプレッドなど、従来のタロットのレイアウトをそのまま適用する占術家も少なくありません。
占い結果を解釈する際には、カードに書かれた卦の意味をもとに、現在の状況と照らし合わせます。
さらに、易経の特徴である「変爻」の概念を取り入れ、現状から未来への変化を占います。
このとき、変化を促す要素を読み解くことで、単なる現状分析にとどまらず、未来をどう切り拓くかという具体的なアドバイスが得られます。
易占タロットの魅力
易占タロットカードの最大の魅力は、占い結果が単なる「吉凶」だけに留まらない点です。
易経はそもそも、森羅万象の流れを把握し、変化の兆しを察知して適応することを重視しています。
よって、カードの結果は「良い・悪い」ではなく「変化の兆し」として受け止め、その変化をどう活かすかを考えることが本質です。
このように、易占タロットカードは単なる未来予測の道具ではなく、自己省察や人生の舵取りをサポートする哲学的なツールとして、今なお多くの人々に親しまれています。
易経と64卦の基礎
易の64卦(ろくじゅうしか)は、古代中国の易経において最も重要な構成要素です。
易経は、「周易」とも呼ばれ、中国古典思想の中核を成す占筮(せんぜい)と哲理の書物です。
紀元前の周の時代に成立したとされ、孔子によって注釈が加えられたことで完成形となったと伝えられています。
易経の思想は、万物は常に変化し、相反する陰と陽のバランスの中であらゆる現象が起こるという陰陽論に基づいています。
64卦は、その陰陽の組み合わせによって宇宙のすべての出来事を象徴的に表現しています。
卦の構造
64卦は、基本的には八卦(はっけ)と呼ばれる8つの基本的なシンボルの組み合わせでできています。
八卦は「乾(けん)」「坤(こん)」「震(しん)」「巽(そん)」「坎(かん)」「離(り)」「艮(ごん)」「兌(だ)」の8種類です。
これらはそれぞれ以下のような自然の象徴を表します。
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乾(けん):天
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坤(こん):地
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震(しん):雷
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巽(そん):風
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坎(かん):水
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離(り):火
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艮(ごん):山
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兌(だ):沢
これら八卦を上下に二つ重ねることで、8 × 8 = 64 の卦が生まれます。
一つの卦は6本の爻(こう)で構成され、各爻は「―」(陽爻)または「--」(陰爻)のいずれかです。
64卦の象徴と意味
それぞれの卦には名前と象意(しょうい:象徴する意味)があり、人間社会の出来事から自然現象、心の働きまでを象徴しています。
例えば、有名な卦として「乾為天(けんいてん)」は、すべての線が陽爻で構成され、創造・強さ・父性の象徴とされます。
一方、「坤為地(こんいち)」はすべてが陰爻で構成され、受容・柔軟性・母性を示します。
また、「水雷屯(すいらいちゅん)」は、坎(かん:水)が上、震(しん:雷)が下にあり、物事の始まりの困難さを象徴します。
「風火家人(ふうかかじん)」は、巽(そん:風)が上、離(り:火)が下にあり、家庭の秩序や人間関係の調和を意味します。
このように、卦は単なる記号ではなく、古代中国の思想家たちが長い年月をかけて人間の生活と自然の摂理を体系化したものです。
変爻と変化の思想
易経の核心にあるのは「変化」です。
卦は静的なものではなく、占筮によって得た卦に対して変爻が現れることで、新たな卦へと変わり、物事の推移を示します。
例えば、六本の爻のうち変化する爻があれば、陰は陽に、陽は陰に転じます。
その結果、最初の本卦(ほんか)と、変爻によって導かれる之卦(しか)という二つの卦が意味を持ち、現在と未来、原因と結果のような形で解釈されます。
これにより、単なる吉凶判断にとどまらず、状況の移り変わりと取るべき行動のヒントを与えてくれます。
64卦の活用
現代では、易占い師や研究者は64卦を用いて人生のあらゆる局面を分析します。
家庭問題、事業の運勢、恋愛、転職、引っ越しなど、多様な問いに対して、64卦の象意を用いて答えを導きます。
また、易は単なる占いにとどまらず、経営戦略や自己啓発、禅の修行、心理学にも応用されるなど、幅広い分野で活用されています。
例えば、企業経営においては、易の「乾坤」の思想を取り入れ、攻めと守りのバランスを考えたり、組織の発展段階を64卦に当てはめて分析したりする事例もあります。
64卦を学ぶ意義
易経の64卦は、一度に覚えきれるものではありません。
しかし、各卦の象意を少しずつ学び、自分の体験と照らし合わせることで、人生観や物事の見方が大きく広がります。
現代では書籍やデジタルツールも充実しており、カード形式の図解書、易アプリ、オンライン講座などを活用すれば、初心者でも易の世界に親しみやすくなっています。
学び続けることで、単なる占いの枠を超え、「変化を察知し、適応する」という易経の智慧を、日々の暮らしや仕事に活かすことができるのです。
易占いにおけるサイコロとは
易占いの方法には、竹の筮竹(ぜいちく)を用いる方法、コインを用いる方法、そして現代ではサイコロを使う方法など、さまざまな占筮手段があります。
中でもサイコロを使った易占いは、初心者でも扱いやすく、シンプルかつ確実に卦を立てられることから、現代の易占愛好者に広く利用されています。
古代中国では、易占はもともと亀甲占いや筮竹(50本の細い棒)を使って時間をかけて卦を立てるものでした。
しかし時代が進むにつれ、より簡便な方法としてコインやサイコロが考案され、今日では家庭でも実践できるようになっています。
サイコロ占筮の基本原理
易占いの本質は、「陰」と「陽」という二元の原理をどのように6本の爻に置き換えるかにあります。サイコロを使う場合でも、この原理は同じです。
通常、サイコロは2個または3個を用い、出目の偶数・奇数や合計値で爻(陽爻または陰爻)を決定します。
また、変爻が発生するかどうかもサイコロの出目によって決まります。
例えば、2個のサイコロを振って、
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偶数なら陽爻(―)、
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奇数なら陰爻(--)
と決める方法があります。
また、変爻の有無を決める場合は、出目の合計値が特定の数字(たとえば合計が6や12など)だった場合、その爻が変爻として扱われます。
サイコロの種類と使い分け
易占い専用のサイコロには、6面体のほか、8面体や12面体を使う人もいます。
一般的には、身近にある普通の6面サイコロを2個か3個使用する方法が多いです。
近年では、専用に数字や陰陽マークが刻印された「易サイコロ」が市販されており、これを使うとより直感的に陰爻・陽爻を決定できるため、初心者にも分かりやすいです。
サイコロ占筮の実践例
実際のサイコロ占筮の手順を簡単にご紹介します。
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問いを立てる
占いたいことを心の中で明確にします。できれば紙に書き出すとより集中できます。 -
サイコロを振る
1回の爻を決めるために、サイコロを振ります。6爻分繰り返すので、合計6回サイコロを振ります。 -
爻を決定する
出目の奇数・偶数、または合計値で陽爻か陰爻かを決め、順に下爻(1爻目)から上爻(6爻目)まで並べます。 -
卦を読み解く
完成した6本の爻の組み合わせを、八卦表に当てはめて64卦を特定します。もし変爻があれば、その爻を反転させて之卦を導き、意味を比較して現状と未来を考えます。 -
解釈する
本卦と之卦の象意を読み、問いに対する答えを導きます。このとき、爻辞(こうじ:各爻に対応する解説)を参考にするのも重要です。
このように、サイコロを使えば易経の本来の占筮法を比較的短時間で体験できます。
特に、伝統的な筮竹占いのような煩雑な手順を省略しつつも、核心の哲理は変わりません。
サイコロ占筮の長所と短所
長所
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持ち運びが容易で、いつでもどこでも占える
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筮竹より短時間で結果を得られる
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数字で結果を決めるため、再現性が高い
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初心者でもルールを覚えやすい
短所
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筮竹に比べると、儀式性や厳かさが失われやすい
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出目の偶然性が強調されるため、心を整える意識が薄れやすい
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深い意味を読み解くには結局、易経の学習が不可欠
サイコロ占筮はあくまで卦を立てる手段の一つです。その先にある易経の解釈力こそが、易占の深みを味わう上では不可欠です。
現代の活用
今日では、スマートフォンアプリとして「易占サイコロ」が登場しており、実際にサイコロを振らなくても、ボタンをタップするだけで出目をランダムに生成できる仕組みが一般的になっています。
しかし、物理的にサイコロを振る行為には、集中力を高め、問いと向き合う儀式性があります。
心を整え、問いを深く意識しながらサイコロを振ることで、得られた卦に対する洞察も深まると言われています。
サイコロ占筮を楽しむために
サイコロ占筮は易の入口として最適です。
家庭や旅先で手軽に卦を立てられるので、易経に初めて触れる人でも気負わず試すことができます。
もし占った結果が思わしくなくても、それを「未来を変えるヒント」として前向きに受け止めるのが易の智慧です。
サイコロというシンプルな道具に、古代中国から続く深遠な思想が宿っていると考えると、何気ない一振りが特別な時間に感じられるはずです。
まとめ

易占いは、中国古代から数千年にわたり伝わってきた叡智です。
その核心には、「変化こそが唯一の不変である」という哲理があります。
64卦という壮大な象徴体系は、私たちの日々の暮らしや人生の決断を、ただの偶然ではなく、大いなる自然の流れの一部として捉える視点を与えてくれます。
今回ご紹介した「易占タロットカード」「易 64卦」「サイコロ占筮」は、いずれも易経の知恵を身近に活かすための手段です。
占いというと、当たるか当たらないか、吉か凶か、未来はどうなるのか、といった視点に注目されがちです。
しかし易は、単なる未来予測の枠を超え、今の自分の立ち位置を知り、そこからどう進むべきかを示してくれる羅針盤のような存在です。
タロットカードを入り口にしてもよし、64卦を一つずつ学ぶもよし、気軽にサイコロを振るのもよし――どこから入っても、その根底には変化を読むという一貫した思想があります。
変化を知ることが、行動を変える
易経に親しむことで、人生のあらゆる場面に「兆し」を見つける目が養われます。
これは単に「運命を知る」という受け身の態度ではなく、「状況の流れを読み、自ら行動を選び取る」という主体性に他なりません。
例えば、占った結果が「凶」を示していたとしても、易経の世界ではそれを悲観する必要はありません。
むしろ「どのように変わっていくのか」「何を正し、どこで踏みとどまるべきか」というヒントとして受け止めます。
そして、そのヒントをもとに現状を省みて行動を調整することで、運命の流れを自分の手でコントロールすることが可能になります。
この考え方は、現代社会を生きる私たちにとっても非常に有効です。
仕事、人間関係、健康、家族、恋愛――どんな悩みも変化の中で起こり、また変化の中で解決の糸口が見つかります。
易は、そうした変化の兆しに気づかせ、冷静に現状を見つめ直すきっかけを与えてくれるのです。
易占タロットカードの意義
易占タロットカードは、タロットの直感性と、易経の深遠な哲理を合わせ持つ稀有な道具です。
絵柄やキーワードを見ながら思索を深められるため、易経の難解さにハードルを感じる人でも、カードを手に取ることで自然に卦の意味に触れることができます。
1枚引きやスプレッドを展開して問いを立て、卦の象意を確認しながら自分自身の内面と対話する――それは一種のセルフカウンセリングでもあり、瞑想にも似た行為です。
易占タロットの面白さは、引いた結果がすぐに答えを与えてくれるのではなく、自分に考えさせる余地を残してくれるところにあります。
自分の言葉で意味をつなぎ、自分の課題に落とし込むことで、占いが他人任せの予言ではなく、自分の手でつかみ取る知恵に変わるのです。
64卦を学ぶということ
易経の64卦を本格的に学び始めると、その奥深さに驚かされます。
1つの卦に込められた言葉は短くとも、そこには天と地の理、自然と人のあり方、組織や家庭の在り方まで含まれています。
現代に生きる私たちが64卦を学ぶメリットは、単なる占いを超えた「思考の型」を得られることです。
「上に天、下に地」という発想に象徴されるように、問題を多面的に見る視点や、物事が極まれば必ず転じるという循環の思想などは、混迷の時代にこそ役立つ叡智です。
ただし、64卦をすべて覚えるのは容易ではありません。
だからこそ、日々の出来事に合わせて1つの卦を調べ、じっくりとその言葉を味わうという学び方が推奨されます。
書籍や辞典、デジタルアプリなどを併用して、暮らしの中で易を活かす楽しさをぜひ体験してみてください。
サイコロ占筮の現代的意義
サイコロ占筮は、現代人のライフスタイルに最もなじむ易占法のひとつです。
忙しい日々の中でも、ちょっとした隙間時間にサイコロを振り、今日のテーマを問いかける。
簡単な道具でありながら、心を静め、問いに向き合うことで、日常の中に特別な時間が生まれます。
また、家族や友人と一緒にサイコロを振って卦を立てるのも楽しい体験です。
一人で思索を深めるだけでなく、結果を共有しながら会話することで、互いの価値観を知り、未来について話し合うきっかけになります。
サイコロというシンプルなツールに、古代の叡智が息づいている――それを感じながら、易占いを気軽に日々の生活に取り入れてみてください。
これから易とどう向き合うか
最後にお伝えしたいのは、易は決して「当て物」ではないということです。
占いは結果がすべてではなく、問いを立てる行為自体が大切です。
自分は何に迷い、何を望んでいるのか。その問いに誠実に向き合うことで、得られる卦はより意味深いものになります。
易占タロットカードで絵を眺めるのも良いでしょう。
64卦の一節を読み、古代の言葉に思いを馳せるのも良いでしょう。
サイコロを振って一瞬の偶然に身を任せるのも良いでしょう。
大切なのは、占いの結果をどう生かすかです。
「変化を察し、変化に応じる」。
この易の智慧を、現代に生きる私たちが受け取り、自らの言葉と行動に落とし込むとき、数千年前から続く叡智は初めて今を生きる力になります。